予算制約線と無差別曲線




今回はミクロ経済学の基礎中の基礎、消費者理論の無差別曲線と予算制約線について論じます。予算制約線、無差別曲線の導出方法とそれらの線が表す意味、さらには練習問題とその解説を記載しています。

この文章を読めば基本的な問題を解く力が養われるはずです。最後の練習問題はぜひ自分の力で臨んでみて下さい。じっくりこの文章を読んでから理解して取り組んで頂ければ、易しく感じる内容の問題です。

それでは、まずは予算制約線から見ていきましょう。

また、練習問題もいくつか用意しているので、この記事を読み終わった後に読んでみてください。

目次

予算制約線

予算制約線とは、所得と2財の価格及び数量の関係を示す直線であり、予算線とも呼ばれます。定義となる式は、

M=aX+bY(M:所得、a:X財の価格、X:Xの数量、b:Y財の価格、Y:Yの数量)

です。

所得の総額というのが、X財とY財の合計額に等しいという等式となっています。つまり、消費者はすべての所得をX財とY財の購入に充てる、ということを前提として作られた等式です。

そして、所得は所与のものであり、X財の数量とY財の数量に着目してグラフを描くことになるので、これをY=の形に変形すると、

Y=-(a/b)X+M/b

となります。そのため、予算制約線は一般的に右下がりの直線を描き、その直線と軸に囲まれる領域が消費者の購入可能な組み合わせとなります。

つまり、その領域内の財の組み合わせであれば、いかなる点においても消費者はそれらの財を購入することが出来ます。

ここで、予算線がどのように導出されるかを考えます。消費者の立場からすると、所得と財の価格・数量のうち、コントロール出来るのは所得と購入する財の数量だけですよね。言うまでもなく、財の価格は生産者が決定するからです。

そこで、予算線の例を見てみましょう。財の数量を軸として、それぞれX,Yとおきます。また、所得は10、Xの価格は1、Yの価格は2と仮定します。

消費者は所得の全て2財の購入に費やすとすると、10=1・X+2・Yと表記することができます。

これをy=の形にすると、y=-(1/2)X+5となり右下がりの直線の完成です。

そして購入可能領域についても考えてみます。購入可能領域の中にある点(0、4)に関して、この数値を変形前の予算制約式に代入すると、

10>=1・0+2・4=8

となり、所得10のうち合計8しか消費していないため余りが出ますよね?つまり、予算制約線上の点でなくてもそれより下の範囲内であればどこでも購入できる組み合わせになることから、この直線とX軸Y軸で囲まれる部分は購入可能領域と呼ばれるのです。

予算制約線の求め方

繰り返しとなりますが、予算制約線の求め方の確認です。

所得をM、xの価格をPx、yの価格をPyとすると、

M=Px・X+Py・Yとなります。これがまさしく予算制約線の公式です。

問題文で与えられる条件は常に所得、財の価格のみで、数量はX,Yなどの文字として置き、それを軸とするのが基本なので、予算線と聞いたら右下がりの一次関数だと思って下さい。

先程、予算線と軸で囲まれる領域が消費者の購入可能領域である、と述べましたが、実際の試験で用いるのは、予算制約線上にある点だけですので、購入可能領域はさほど意識しなくても良いです。

次に、予算線をY=-(Px/Py)X+M/Pyとし、価格が変化した時と所得が変化した時について見ていきましょう。

x財の価格が下落したときの予算線の変化

切片であるα点は、M/Pyで表記され、X財の価格の下落の影響を受けません。よって、財Xの価格が下落しようが上昇しようがこの点は変動しません。

X軸との交点であるβ点はM/Pxで表され、分母であるPxが減少すればそれに伴い M/Pxの値は大きくなり、βは右にシフトし、β’のような場所に位置します。そして、このβ’と切片αを結んだ線分が、Xの価格下落後の新しい予算線です。

所得が減少した時の予算制約線の変化

所得が減少するということは、Mの値が小さくなるということを意味します。Mの値が小さくなるということは、Mを分子に持つ切片α点とx軸との交点であるβ点はそれぞれ小さくなります。よって、αはα’、βはβ’にそれぞれ推移し、この2点を結んだものが新しい予算線となります。

なお、予算線の傾きの大きさはX財、Y財の価格比で表されており、所得の影響を受けません。したがって、所得が変動した時は、常に予算線は上下に平行移動することになります。

無差別曲線

無差別曲線とは、消費者がある2つの財を消費する際、一定の水準の効用(満足度)を達成する組み合わせの集合を表した曲線です。

言い換えれば、どのような2つの財の組み合わせ(各々の消費量)であっても、同じ満足度を得ることが出来る組み合わせの集合です。

また、一般的な無差別曲線は原点に対して凸の形状になります。すなわち、一般的な無差別曲線の形状は反比例のグラフ同一であるということです。

一般的な無差別曲線はなぜこのような形状になるのか、どのような性質を持っているのかを見ていきましょう。

無差別曲線の式

無差別曲線の式は3つの変数で構成されています。それは、消費者の効用、2つの異なる財の需要量を表す変数2つです。ここで、消費者の効用を表すU、ある財Xの需要量を表すx、もう1つの財Yの需要量をyとおきます。

一般的な無差別曲線では、消費者の効用はそれぞれの財の需要量を掛け合わせたものであると考えられています。すなわち、

U=x・y

となり、これがまさしく無差別曲線の式を表しています。

ある一人の消費者がUという満足度を得るためには、XとYをそれぞれいくら消費するべきかを示した等式が無差別曲線の定義ということです。そしてそれは、特殊な場合を除き、それぞれの財の消費量によってその度合いが増減するといったものです。

具体的な数値を入れて考えてみましょう。ある人が衣服と食料を同じくらい重要だと考えていて、それぞれを求めているとします。満足度U=10を達成するには、衣服が2、食糧が5、もしくは衣服が5、食糧が2必要になるということになります。式に当てはめてみると、

U=2×5 or U=5×2

このように、ある満足度を達成するための2つの財の組み合わせを表すものがまさに無差別曲線です。そして、経済学においてこの無差別曲線をグラフで表す際には、満足度を定数として、2つの財がそれぞれ変数であるものとして描くことになります。

無差別曲線の形状の導出

無差別曲線は、消費者がX,Yの2つの財を消費する際の効用を表したものであり、それぞれの財の需要量によってその効用の大きさは一意的に定まります。上述したように、無差別曲線を考える際には、X,Yの需要量を座標軸に取ることとされているので、無差別曲線の等式が、U=xyと表せることから、y=の形に変形すると、

y=U/x

となります。

例えば、Uが1のとき、y=1/xとなり、反比例のグラフになりますよね。Uが2であっても3あっても、Uがどのような値を取ろうとも、必ず反比例のグラフになります。このことから、無差別曲線の形状は反比例のグラフと同じであること言えます。

次に、無差別曲線の3つの性質について確認します。

1.上部に位置する無差別曲線は下部に位置する無差別曲線よりも効用が高い

無差別曲線はその位置が高くなればなるほど、効用が高くなることを示しています。つまり、2つの財の合計の消費量が増加することで効用が上昇するということです。消費者は一般的により多くの財を消費することを好みますから、財の消費量が増えれば効用が向上するというというのは容易に頷けるでしょう。

この性質を反比例のグラフから読み取ってみましょう。効用が1,2,3のグラフをそれぞれy=1/x,y=2/x,y=3/xとします。また、x=1のとき、それぞれy=1,y=2,y=3となります。

すると、効用Uが高いほど、無差別曲線の位置が高くなることがグラフからも読み取れます。図の例では、Yの消費量の増加によって効用が高められていることが示されています。

2.無差別曲線は互いに交わらない

無差別曲線同士は決して互いに交わりません。無差別曲線はある水準の効用を満たす2財の消費量の組み合わせの集合です。つまり、無差別曲線はそれぞれ、その曲線が表す効用が異なります。

しかし、仮に無差別曲線が交わるとすると、その点において同じ効用をもたらすということになります。

無差別曲線はその曲線上のあらゆる点の効用が等しいことから、ある点で同じ効用を持つ無差別曲線が2つあるとすれば、それらは重なり合っている以外にありえません。このように、無差別曲線の定義より、明らかに無差別曲線は交わらないことがわかります。

次に、この性質をグラフを用いて確認してみましょう。2つの無差別曲線が互いに交差し、それぞれの無差別曲線上の点と無差別曲線の交点をX,Y,Zとします。

Z点で2つの無差別曲線が交差すると仮定します。すると、これらの無差別曲線は同じ効用を表す無差別曲線を表しているということになります。何故なら、無差別曲線はある水準の効用を表す点の集合だからです。ここで、X点とY点の関係について確認します。

この場合にはY点の方がX点よりも上部に位置していますが、無差別曲線は上部に位置する方が高い効用を得られることから、X点よりもY点の効用の方が高いことが分かります。

すなわち、Y点を通る無差別曲線の方がX点を通る無差別曲線よりも効用が高いと判断できます。しかし、これは2つの無差別曲線が同様の効用水準であるという仮定と矛盾します。

したがって、やはり無差別曲線は互いに交わらないのです。

3.無差別曲線は原点に対して凸(限界代替率逓減の法則)

経済学では、一般的に、無差別曲線が原点に対して凸の形状を描くことを説明する際、限界代替率逓減の法則を用います。限界代替率というのは、片方の財の数量を1単位増加させる際、効用を維持するためにもう一方の財をどれほど減少させれば良いかを示したものです。

さらに言うと、片方の財の数量を追加し続ければ、やがてその財を1単位増やすことの効用が小さくなっていき、元の効用を維持するために必要なもう一方の財の減少幅が小さくなるという原理です。

より具体的に理解するために、以下のグラフを考えます。

KさんがA点でX財とY財を所持しているとします。(X財が1つ、Y財が6つ)そして、他人からKさんのY財幾つかと相手側のX財1つを交換するように頼まれたとします。この時、KさんはX財よりもかなり多くY財を所持しているため、X財に価値を感じていて、Y財3つで交換に応じたとすると、A点→B点へ移動します。(X財が3つ、Y財が3つ)

限界代替率は片方の財を1単位増加させたときの、効用を維持するために減らすべきもう一方の財の数量なので、限界代替率は6-3=3となります。

さらに、Kさんは再びY財をX財と交換しようとしたとします。このとき、Kさんは以前よりもX財を多くもっており、X財が以前ほど貴重ではいないように感じるようになります。そこで、X財1つとY財を1つを交換して、点B→点Cに移動するとします。このとき限界代替率は1になっています。これを繰り返して点を結べば、上記の図のような軌跡を描くことができます。

以上のことから、無差別曲線の形状を説明する際、限界代替率逓減の法則により無差別曲線は原点に対して凸になる、と表現することが多いのです。

最適消費点

消費者は、自分の持つ予算の範囲内で、すなわち、予算線の範囲内で、自分の効用を最大にするように消費する数量を決定します。予算線は、ご存知の通り、右下がりの直線です。一方、無差別曲線は原点に対して凸の曲線で、原点から離れるほど効用水準は高くなります。

このことから、効用を最大にするには、最も原点から離れており、なおかつ、予算線の範囲内である、という条件を満たす点で消費を行えば良いということになります。すなわち、予算線と無差別曲線が接する点こそが最適消費点です

最適消費点を求めるのには、加重限界効用均等の法則を使います。

X財の限界効用をMUx、価格をPx、Y財の限界効用をMUy、価格をPyとすると、

MUx/Px=MUy/Py

という式が成立します。これを加重限界効用均等の法則と呼びます。この式を使って、Y=もしくはX=の式を作り、予算制約線の式に代入すれば、答えは導き出されます。

また、効用関数に予算制約線を変形して導出したx=またはy=の式を代入して、U’=0とすることで最適消費点を求めることも出来ます。

無差別曲線の問題

ここでは、無差別曲線に関する問題を取り上げます。この記事で学んだ知識で十分に解ける問題ですので、解説を見る前にぜひ自分で解いてみてください。

解説を見てしまいそうだという方は、問題を簡単にメモした後に携帯を置いたり他のページを開いたりして対策してください。

1.ある家計の効用関数がU=X^1/3・Y^2/3(エックスの1/3乗×Yの2/3乗)で表せるとする。

所得が120、X財の価格が4、Y財の価格が1であるとき、効用を最大にするX,Yの消費量をそれぞれ求めよ。

2.ある消費者の効用関数がU=XYであるとする。X財の価格を20、Y財の価格を4とする。このとき、消費者が500の効用水準を達成するために必要となる最小の所得を求めよ。

(1の解説)

まずは、予算制約線を求めましょう。X財の価格が4、Y財の価格が1、所得が120であることから、予算制約線の公式、M=Px・X+Py・Y にあてはめると、

120=4X+Y

次に、加重限界効用均等の法則を利用します。MUx=(1/3)×(Y/X)^2/3,MUy=(2/3)×(X/Y)^1/3、Px=4、Py=1であることから、 {(1/3)×(Y/X)^2/3}/4=(2/3)×(X/Y)^1/3 ⇔ (1/3)×(Y/X)^2/3=4×(2/3)×(X/Y)^1/3

⇔ Y/3=8X/3 ⇔ Y=8X

これを予算制約線に代入すると、

120=4X+8X よってX=10, Y=8Xより、Y=80

すなわち、効用を最大にするX,Yはそれぞれ(X,Y)=(10,80)・・・解

(2の解説)

同様に、最初は予算制約線を求めます。X財の価格が20、Y財の価格が4、所得は未知数であることから、所得をMとおき、予算制約線の公式、M=Px・X+Py・Y にあてはめると、

M=20X+4Y

次に、加重限界効用均等の法則を用います。MUx=Y,MUy=X,Px=20,Py=4であることから、

Y/20=X/4⇔Y=5X

これを効用関数に代入すると、U=5X^2

U=500より500=5X^2 ⇔ 100=X^2  ∴X=10,Y=50

これを予算制約線の式、M=20X+4Yに代入すると、M=20・10+4・50=400・・・解

その他 練習問題

予算制約線と無差別曲線の計算問題①

「予算制約線と無差別曲線の計算問題②」

「予算制約線と無差別曲線の計算問題③」

「予算制約線と無差別曲線の計算問題④」

「予算制約線と無差別曲線の計算問題⑤」

「予算制約線と無差別曲線の計算問題⑥」

「予算制約線と無差別曲線の計算問題⑦」

タイトルとURLをコピーしました