ライフサイクル仮説
ライフサイクル仮説とは、現在の消費は現在の所得のみに依存するのではなく、一生涯を通じて得られる所得の総額にも依存するというものです。この理論によると、人々の消費行動は人生の各周期において、生涯得られる金額を将来的に全部使い切れるように決定されます。
平たく言うと、人々は各期の消費を今後の人生のほんの一部であると考えるため、現在と将来の所得を考慮したうえで消費行動を決定しているということです。現在と将来の所得とは、厳密にいえば、初期の資産水準と将来の労働所得の割引現在価値のことです。
また、ライフサイクル仮説では、所与の利子率の下で家計が自由に貯蓄や借入を出来ると仮定していることから、消費の決定に際しては利子率がどんな水準であるかが重要になります。利子率は割引現在価値に大きな影響を及ぼすからです。
さて、以上を踏まえると、消費は勤労所得と資産の関数となります。生涯得られる勤労所得をY、資産をWとすると、現在の消費Cは、
C=αY+βW(α:勤労所得に対する限界消費性向, β:資産に対する限界消費性向)
となります。
また、両辺をYで割ると
平均消費性向C/Y=α+β×W/Y
となります。
ここで、平均消費性向の動きを見てみます。短期的には資産Wは不変なので、仮に所得Yが増加すればW/Yは小さくなり、平均消費性向は小さくなることが分かります。しかし、長期的には、資産Wは資産価値の上昇に伴って増加し、所得Yも比例的に増加すると考えられるので、長期的にはW/Yは一定となり、平均消費性向も一定となるとされています。
また、一般的には、ライフサイクル仮説の問題を解くときにこの等式を使うことは少なく、生涯所得と生涯消費が等しくなるというライフサイクル仮説の仮定を使うことが多いと思います。
ですので、ライフサイクル仮説の問題に取り掛かる際には、まず生涯の所得と生涯の所得が均衡するということを念頭に置きましょう。
というわけで例題に移ります。
(問)ある人がライフサイクル仮説通りに消費と貯蓄を決定するとする。この人の勤労期間は20年であり、その間は毎年300万円の所得が得られるとする。しかし、勤労を終えてから死期を迎えるまでの10年間は所得がない。さらに、当初この人には300万円の貯蓄がある。以上の条件を踏まえたうえで、この人が毎期同額の消費をするとすれば、毎期いくらの貯蓄をすることになるか。
ただし、死後の資産及び利子率は0とする。
(解)
ライフサイクル仮説においては、生涯の所得=生涯の消費となるように、人々は消費行動を決定します。この原理を使えばすぐに解けますが、問では貯蓄を求めよとなっているのでこれに惑わされないように注意しましょう。
まずは生涯の所得を考えます。生涯の所得は現在の貯蓄と将来得られる所得を足せば求まります。すなわち、
生涯の所得=貯蓄300万+勤労所得300万×20年=6300万
生涯の消費額は残りの生存年数に毎期の消費額Cを掛けることで定まります。
生涯の消費=(勤労年数20年+その後10年)× C =30C
そして、生涯の所得=生涯の消費であるから、
6300万=30C ⇔ C=210万
これより、毎期の消費が210万であることが分かります。貯蓄は年収のうち残った分を求めればよいので、
貯蓄=300万-210万=90万・・・(解)
もう1問解いてみたい方は、「ライフサイクル仮説~計算問題~」もご覧下さい。