アジアインフラ投資銀行(AIIB)とは~ADB・日本との関係、課題等~




 

中国の経済成長が目覚ましいと言われるようになってから数十年が経過し、今やその成長は失速の兆しを見せています。しかし、自国の経済の衰退を黙って看過する中国ではありません。そこで、更なる経済発展を達成するため、自国主導の投資銀行を立ち上げて、各国との関係を強化し、貿易を活発にしようと考え、アジアインフラ投資銀行の設立に踏み切りました。ここでは、アジアインフラ投資銀行(AIIB)について分かりやすく説明します。

 

目次

アジアインフラ投資銀行(AIIB)とは

アジアインフラ投資銀行(AIIB)とは「Asian Infrastructure Investment Bank」の略称であり、アジア太平洋諸国のインフラ整備を支援するために中国が主導で設立している国際開発金融機関です。

国際解発金融機関は、先進国と途上国で構成され、先進国が途上国に対して財政の支援や経済・社会の水準向上の手助けを行うという役割を果たしています。国際開発金融機関には、欧州復興開発銀行やアジア開発銀行、アフリカ開発銀行があります。

 

 

ここでは、アジアインフラ投資銀行(AIIB)と他の機関や日本との関わり、課題点などについて簡単にまとめて説明します。

 

アジアインフラ投資銀行(AIIB)は中国の北京に本部を置いていて、現時点では57ヶ国が参加表明しています。中国が運営を主導しており、2015年の間に設立することを目標としています。

 

アジアの国々は現在、世界の中でも高い経済成長率を誇っていて、それに伴って増大しているアジアのインフラ需要に応えることを目的として掲げています。

しかし、アジア地域のインフラ投資を支援する国際金融機関として、既にアジア開発銀行(ADB)があります。

 

 

アジア開発銀行(ADB)は日米を中心に1966年に設立された国際金融機関で、アジア地域に投資を行ってきました。アジア開発銀行はアジアに対して資金を融通しているものの、アジアの国々のインフラ需要に応え切れていないことから、アジア開発銀行(ADB)には不満の声があがっていました。

さらに、AIIBを設立する中国にとっても、自国の存在感を示せないという意味で、ADBを快く思っていませんでした。

 

 

そこで、自国の影響力をより強化するために、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立に踏み切ったわけです。なお、アメリカと日本はAIIBに対して不参加の姿勢を取っています。

 

さらに、自国の経済がやや停滞気味であることも中国がAIIBを設立しようと試みている理由の一つです。中国は国内の需要が弱まっており、それに伴い企業の生産活動が減退しつつあります。

これを反映して中国の経済成長率は鈍化しており、以前ほど高い水準の経済成長率ではなくなってしまいました。中国には、この流れを断ち切って高度成長を維持するために、インフラ輸出を拡大しようという狙いがあります。

 

 

アジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加国

アジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加国は現在57ヶ国です。そのうち、30数ヶ国がアジア太平洋地域であり、アジア諸国はAIIBに対して期待を抱いていると考えても良いでしょう。

参加表明をしているアジア太平洋地域の国々は、モンゴル、フィリピン、ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、インドネシア、バングラデシュ、インド、ネパール、スリランカ、モルディブ、パキスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、オマーン、カタール、クウェート、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、イスラエル、イラン、トルコ、ヨルダン、ニュージーランド、韓国、オーストラリアです。

 

また、欧州地域では、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、デンマーク、ロシアが参加表明国です。なお、北朝鮮、香港、台湾も参加申請をしましたが、今のところは拒絶されています。

最近では、ニュージーランドが正式に参加表明を行いました(2015年6月15日)。以前は積極関与を表明するにとどまっていましたが、ようやく姿勢を明確にしたようです。ニュージーランドはアジア圏が最大の貿易地域であり、輸出と輸入どちらもその額の45%前後がアジア圏との貿易によるものです。

このことから、アジアの経済発展に関与し、最終的に自国との貿易をより活発化させようという思惑があるのでしょう。

 

 

6月29日に行われた署名式では、57ヶ国すべての代表が中国の人民大会堂に集まりました。ただし、全ての国の代表が同日の署名を行ったわけではありません。タイ、マレーシア、フィリピン、デンマーク、ポーランド、クウェートは署名を見送りました。

アジアインフラ投資銀行の設立を急ぐ中国は、年末までにこれらの国々にも署名をするように求めています。

 

中国の影響力の増大を懸念する日本とアメリカにとって最も誤算だったのは、イギリスを始めとする西洋諸国の参加表明でした。

G7(アメリカ、日本、イギリス、フランス、カナダ、ドイツ、イタリア)は国際的に大きな決断をする際、歩調を合わせて行動を共にしてきました。それなのになぜ、今回のようにG7の間で分裂が起こったのでしょうか。

 

G7が分裂した最大の原因は、イギリスが参加表明を行ったことです。イギリスが参加表明をした後に、それを追随する形でフランス・ドイツ・イタリアが同時に参加表明をしました。すなわち、イギリスが独断で参加を決めたということが分かります。アメリカと比較的親しいイギリスが参加表明を行ったことは、G7に大きな衝撃を与えました。

 

 

イギリスを含む欧州諸国は経済の低迷に苦しんでおり、中国の高度経済成長に肖ろうとすると思惑があったのでしょう。しかし、西洋諸国はアメリカと対立している中国の肩を持つというのに躊躇して参加を見送っていました。そこで、西洋諸国の中でも経済力の高いイギリスが参加を表明したため、それに便乗する形で参加表明を行いました。

イギリスが参加を表明するまでは、参加国はおよそ30ヶ国であり、途上国が中心でした。しかし、イギリスの参加したことにより続々と先進諸国も参加に手を挙げるようになり、その結果先進国と途上国合計57ヶ国が参加することになったのです。

 

また、イギリスが参加表明をしていれなければ、恐らく独仏伊も参加をしていなかったかもしれません。ただ、ドイツは参加表明後、AIIBのヨーロッパの拠点をドイツに作るよう中国に働きかけたり、安倍首相に参加するよう促したりするなど、AIIBに積極的に関与しようとしています。

 

 

最近では、アジアインフラ投資銀行の加盟国は現時点の57ヶ国に加え、参加を希望する国が24ヶ国あり、もしこれらが加われば合計で81ヶ国になります。次に紹介するアジア開発銀行の加盟国は67ヶ国なので、加盟国の数においてアジアインフラ投資銀行が優位に立つと言えるでしょう。

 

 

 

アジアインフラ投資銀行(AIIB)とアジア開発銀行(ADB)

アジアインフラ投資銀行(AIIB)とアジア開発銀行(ADB)を対比する前に、簡単にADBの説明をしておきます。

アジア開発銀行(ADB)とは、アジア太平洋諸国の経済発展や経済格差の是正に寄与し、アジア太平洋諸国をさらに繁栄させることを目的とした国際金融機関です。1966年に設立され、フィリピンのマニラに本部を置いています。

 

加盟国は現在、67ヶ国に及び、日米が主導権を握って事業を営んでいます。加盟国の上位5ヶ国の出資比率を見ると、日本15.65%、アメリカ15.65%、中国6.46%、インド6.35%、オーストラリア5.8%であり、日米の出資比率が突出していることが分かるでしょう。

しかし、日米が主導権を握っているとはいえども、初代総裁から現在の総裁まで全て日本人が担っているので、アメリカの影響力は薄く日本の独裁であると言えます。

 

 

アジア開発銀行の事業については、主に以下の3点があります。発展途上にある加盟国に対して資金を貸し付けることや株式による投資を行うこと、開発のためのプロジェクトやプログラムを執行するための技術支援、開発目的を持つ公的機関や現地企業の支援です。

貸し付けや株式投資、技術支援の対象になるのは、教育や医療を始め、鉄道・電気・水道・ガスなどのインフラ事業、さらにはエネルギー開発など多岐に渡ります。

ここで、AIIBとADBには類似点があるということが分かります。すなわち、どちらもアジア太平洋諸国のインフラに投資することを目的の1つとしていることです。

そういうわけで、AIIBが設立されてしまうと、ADBはアジアにおける影響力が小さくなってしまう恐れがあります。そうなることを避けるために、ADBは融資枠を1.5倍も増額させることを決定しました。さらに、それと合わせて積極的に融資を行なっていくという姿勢を明確にしました。

AIIBが規模が非常に大きく、迅速な融資を売りにしているため、ADBはそれに対抗してこのような政策を打ち出したのです。

 

 

アジアインフラ投資銀行(AIIB)と日本

日本は2015年5月現在、アジアインフラ投資銀行へは参加しないと表明しています。ほとんどの先進国が参加表明をする中で、参加に慎重なのはアメリカとカナダ、日本だけです。

 

日本政府は5月21日、設立協定が結ばれる6月下旬段階でも判断を留保することを決定しました。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の組織運営が不明確であるうえに、米国が消極的な姿勢を貫いていることに配慮しているのでしょう。また、中国は日本にアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加して欲しいという姿勢を見せており、日本政府はあえて参加を引き伸ばし中国に譲歩させるという思惑もあります。

 

しかし、現時点ではやはり日本政府はAIIBの参加に否定的であると言えるでしょう。2015年5月21日に行われた国際交流会議「アジアの未来」で、安倍首相はアジア諸国に対して環境や耐久性に配慮した質の高いインフラ投資を行っていくと唱えました。

 

また、演説では直接AIIBについて言及しなかったものの、日本の持ち味である質の高さを強調し、AIIBとの違いを暗に強調しています。そして、「安物買いの銭失い」という言葉を引き合いに出し、安っぽい投資ではなく、質の高い投資こそが重要であるということを力説しました。

さらに、アジア開発銀行(ADB)の融資能力を5割増大させ、融資を拡大させようとしていることを示しました。日本が中核を担っているアジア開発銀行を強化して、アジアのインフラ投資をさらに積極的に行えるようにし、AIIBに対抗する体制を整えているのでしょう。

 

 

 

日本がアジアインフラ投資銀行に参加するメリット

日本がアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加するメリットは何といってもアジアのインフラ投資に弾みがつくことです。日本は成長戦略の柱に積極的なインフラ輸出を掲げており、AIIBに参加することはこの政策を実現するうえで非常に大きな一歩と成り得ます。

アジア諸国は世界の地域の中でも高い成長率を誇り、なおかつインフラの整備が未発達というまさにインフラ輸出を行うのに適した地域です。このことから、アジア諸国へのインフラ輸出がうまくいくことこそが、インフラ輸出の成長戦略を成功へ導くと言っても過言ではないでしょう。

 

もちろん、日本は他の地域にインフラの輸出を行ったり、これから行おうと臨んだりしていますが、やはりアジア諸国に及ぶほどの利益を生み出すとは考えられません。この意味で、日本がAIIBに参加するメリットは非常に大きいと言えます。

また、日本の国際的地位の低下を防ぐことが出来るということもメリットに成り得るかもしれません。AIIBには潤沢な資金があり、運営が始まれば大規模な投資がアジアの各地で行われることが予想されます。そして、もし日本が参加しなければ、この資金の大部分が中国のものとなってしまいます。

アジアインフラ投資銀行から投資を受けた国々は、中国からの資本を受け入れているということになり、中国との結び付きが強まります。中国とその他のアジア諸国の結び付きが強まると、日本とアジア諸国の経済関係が相対的に弱まってしまい、貿易や投資の面で後れを取ってしまいます。

こうなってしまうと、貿易に依存している経済構造の日本にとっては致命的であり、長期的に経済の低迷から抜け出せない恐れが生じます。

 

 

アジアインフラ投資銀行(AIIB)の課題と問題点

アジアインフラ投資銀行(AIIB)の抱える問題は大きく分けて2点あります。

1点目は、経営が不透明であり、実態が分からないということです。どのような要件を満たせば貸し付けに踏み切るかという融資基準が明示されておらず、運営に不信感を覚えざるを得ません。

特に懸念されていることには、当該案件の環境へ与える影響の審査が適正であるか、人権問題を助長させてしまわないか、貸し付けた資金がきちんと返ってくるのかということがあります。

 

例えば、ある国が大規模な鉄道を敷こうとしているとします。その国が環境を無視したやり方で鉄道を拡張すると、その国だけの問題ではなくなるかもしれません。仮に利便性のみが追求され、大規模な森林伐採が行われたとすると、地球の限りある資源の枯渇に繋がります。

あるいは、一部の民族の意見が無視されて、彼らが多大な不利益を被ることに繋がるかもしれません。あるいは、政府の試算を大きく下回って採算が取れず、赤字経営になって融資された額面を返済出来ないかもしれません。

 

2点目は公正なガバナンスが欠けているということです。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の本部は北京に置かれ、総裁は中国人が選出される予定です。また、出資比率はGDPに比例して決められることから、中国が圧倒的に高い出資比率を誇ります。

GDPについては、「国内総生産(GDP)」で簡単に説明してあります。

 

参加予定の欧州諸国が団結したとしても、中国の出資比率には到底及ばず、中国の発言力はほぼ絶対的なものとなるでしょう。また、本部に各国の理事を置かないことを明言しています。さらに、各国の理事は、前もってAIIBの政策や融資の計画を承認し、一定期間を経たのちに成果の評価を行うべきだとしており、日常的に案件の精査を行わない方針を打ち出しています。

 

つまり、各国の理事の意見は尊重されないということになります。

例えばある案件に対して融資を検討する際、発言権の強い中国のさじ加減ひとつで方針が決まってしまいます。最終的に中国の意思こそがアジアインフラ投資銀行(AIIB)の行動となり、中国の独裁運営となってしまうことが予想されます。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)の資本金を見ると、約1000億ドルであり、その資本金のうち約300億ドルを中国が出資する予定です。そして、中国の議決権比率は26.06%もあります。

増資などの重要性の高い案件の議決に関しては、「75%以上の賛成が必要」という条項が組み込まれていて、中国が事実上の拒否権を持つことになります。つまり、現在の仕組みだと、中国の意向に沿わない融資は行うことができないのです。

 

 

アジアインフラ投資銀行の国際諮問委員会

アジアインフラ投資銀行は現在、国際諮問委員会を設置しようとしています。この委員会には、政治的に地位の高い要職に就いた経験があるアジアやヨーロッパの政治家を対象に選定が進められています。また、優秀な人材であれば国籍は問わないとされていて、加盟国でない日本の政治家も対象としているようです。

そしてなんと、この委員の一人に日本の元首相である鳩山由紀夫氏が選ばれました。鳩山氏のどこが評価されて選ばれたのかは分かりませんが、AIIBの総裁は日本の参加を支持しているので、日本の参加の可能性をより高めるために元首相の鳩山氏を選んだのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

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