恒常所得仮説
恒常所得仮説とは、フリードマンが唱えた消費関数に対する仮説であり、人々は消費水準を決定する際、今後も同様に得られると予測される平均的な所得の恒常所得に依存するというものです。恒常所得とは厳密にいうと、過去に得られた所得の平均値を根拠にした将来得られる所得の予想額です。
ここで大事なのは、ある時点における所得の変動には依存しないということです。恒常所得に対して、この時の所得を変動所得と呼びます。人々は変動所得ではなく、恒常所得をもとに消費水準を決定するように動きます。噛み砕いて言うと、この仮説では、人々は自らの今後の年収を想定して動くので、宝くじや競馬で予想外の資金を得たとしても、長期的には消費水準に影響を与えないということです。
恒常所得仮説において、消費Cは恒常所得Y^Pの関数なので、消費関数は
C=αY^P(α:恒常所得に対する消費の割合)
となります。平均消費性向は
C/Y=αY^P/Y
と表されます。
長期的には経済の発展とともに、人々の恒常所得Y^Pは増加すると考えられ、所得Yも同様に増加するので、αY^P/Yは安定します。したがって、平均消費性向は安定的であると考えられます。しかし、短期的には、一時的な所得があってYがY^Pを上回るときは、Y^P/Yは小さくなるので、平均消費性向は小さくなります。
短期的に平均消費性向が小さくなるかどうか、例題で検証してみましょう。
(例題)消費関数と恒常所得が以下のように与えられている。
C_t=0.5Y^P_t
Y^P_t=0.5Y_t+0.4Y_t-1+0.3Y_t-2+0.2Y_t-3
C_tはt期における消費、Y^P_tはt期における恒常所得、Y_tはt期における所得である。Y_t=600, Y_t-1=Y_t-2=Y_t-3=500のとき、t期の平均消費性向はいくらになるか。
(解)まずは、恒常所得を求めます。
Y^P_t=0.5×600+0.4×500+0.3×500+0.2×500
=300+200+150+100 = 750
これより、C_t=0.5×750=375
t期の平均消費性向はC_t/Y_tなので、
C_t/Y_t=375/600=0.625
(補足)仮に、Y_t=500、すなわち、t期においても他の期と所得が同じであるとしましょう。
このとき、Y^P_t=(0.5+0.4+0.3+0.2)×500=700
C_t=0.5×700=350
これより、C_t/Y_t=350/500=0.7
さっき解いたときよりも平均消費性向は大きくなっていますよね?つまり、t期において所得が他の期よりも大きい方が平均消費性向は小さくなるのです。
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